Q&A

借家人から、敷金を滞納している家賃分(2ヵ月分)に充当して欲しいとの申し入れがありました。充当しなければならないのでしょうか。逆に、家主の方から充当することはできるのでしょうか。

充当する必要はありません。しかし、家主の方から充当することは可能です。

借家人が敷金返還の請求をできるのは、借家を明け渡してから

敷金とは、家主が借家人から預かる預かり金のことをいいます。家主が借家人から敷金を預かる目的は、将来、借家を明け渡してもらう際、借家人に家賃の滞納などの債務不履行があった場合に、それらの費用を敷金から控除することにあります。すなわち、借家人は借家を明け渡して初めて、家主に敷金の返還を請求することが可能となります。
したがって、借家人は借家契約が終了して借家を明け渡すまでの間、敷金を滞納家賃その他借家契約上の債務に充当するように請することはできません。言い換えれば、借家人の方から家賃に充当するように求められても、家主は拒絶することができます(最高裁昭和44・6・12判決)。

家主が自発的に充当すると家賃不払いを理由に契約解除することは不可に

それでは、家主の方から一方的に、敷金を滞納している家賃に充当することは可能でしょうか?
可能です。敷金とは、家主が借家人の債務の担保として預かったものであり、家主のためのものですから、家主が自らの不利益を承知の上で、敷金を滞納家賃に充当することには何の問題もありません。
ただし、敷金を滞納家賃に充当することにより、債務不履行状態は解消されることになりますから、家主は借家人に対し、家賃不払いを理由として借家契約を解除することもできなくなってしまいます。その意味で、家主の方から、あえて敷金を滞納家賃に充当することには何のメリットもないといえます。
なお、家主が敷金を滞納家賃に充当した場合、預かり敷金の額が充当した分だけ減額することになりますので、家主は借家人に減額した分を敷金として補充するように請求することができます。なぜなら、家主は約定の敷金額を家主に預託する義務があるところ、敷金を滞納家賃に充当したことにより、約定の敷金額に不足を生じたことになるからです。
(Owners誌2008年9月号より)