Q&A

借家人のなかに無職の老夫婦がいて、家賃滞納が続いているので近くに住んでいる子供たちに請求したいと思います。子供には親を扶養する義務がある以上、当然請求できると思うのですが?

家主が扶養義務者に対して直接家賃を請求する権利はありません。

親には子供に対する扶養請求権が認められている

ご指摘のとおり、民法第877条1項には「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と規定されていますので、子供には両親(要扶養者)を扶養する義務が あります。言い換えれば両親には子供に対する扶養請求権が認められています。
したがって、賃借人である老夫婦は無職で収入がなく生活費等に困っている場合、子供たちに生活費等を出してくれるよう請求することができます。そして家賃の支払いができないときは、子供たちにその支払いを請求することもできるのです。

家主が扶養請求権を行使することはできない

しかし、この扶養請求権は一身専属権といわれるもので、要扶養者のみが行使することができる権利であり、要扶養者以外の第三者が行使することはできないと解されています。また第三者に扶養請求権を譲渡することもできません。 ご質問の場合でいうと、要扶養者である両親のみが家賃の支払いを子供たちに請求できるのであって、第三者である家主から請求することはできないことになります。
したがって、法的には扶養義務の履行として第三者である家主が直接家賃を取り立てる権利はないので、たとえ老夫婦から子供たちから家賃をもらってくれと頼まれたとしても、家主は子供たちに直接家賃の支払いを請求することはできないのです。
しかし、法的には請求はできないとしても、扶養義務者である子供たちに対して、両親(扶養権利者)のために扶養義務の履行として家賃を支払ってもらうように説得することは可能です。
それでも、家賃を支払ってこない場合には、お気の毒ですが債務不履行を理由として、賃貸借契約を解除して借家から出て行ってもらうしかないでしょう。
(Owners誌2006年11月号より)