Q&A

しばしば長期間不在にする借家人がいます。契約書には、1ヵ月間続けて不在にする場合は契約を解除できる旨の特約を定めています。これに基づき、契約を解除できますか?

その特約は原則として無効と解されます。しかし、頻繁に借家を長期間不在にする場合には、契約解除が可能です。
借家人は契約に定められた用法(使用目的・方法)に従って借家を使用する義務があります(民法616条、594条1項)。たとえば、特約によって借家を居住用としての使用に限定した場合、借家を店舗として使用することはできません。このように用法を限定する特約に借家人が違反した場合、家主は契約を解除することができます。しかし、それは借家人の私生活を不当に制限するなど、客観的に見て不合理である場合を除いて有効です。

1ヵ月不在という理由だけでは契約解除は不可

「1ヵ月間続いて借家を使用しない場合には契約解除できる」という特約を定める理由は、長期間にわたって借家が不在になると、風通しが悪くなると借家が傷んだり、盗難に入られる可能性が高くなるなど、防犯上の問題が生じることが挙げられます。しかし、病気で入院したり海外旅行や海外出張などで1ヵ月程度、借家を不在にすることは一般的に起こりうることです。それでも、借家を明け渡さなければならないとすると、借家人に極めて不合理な結果を強いることになります。したがって、この特約は原則として無効と解すべきといえます。ただし、1ヵ月ではなく、たとえば1年間不在にした場合に契約解除ができるという特約なら有効と解されます。

内容証明郵便で解除したい旨を通達する

なお、借家人の不在期間が1ヵ月以上におよんだ場合で、契約を解除できるとの特約を有効と解した判例もあります(東京地裁平成6年3月16日判決)。しかし、この判例は1ヵ月以上の長期不在の事実が常態化しており、しかも借家人の管理がずさんであるなどの事実を加味して、家主と借家人との信頼関係が失われていると判断して、契約解除を認めたものであり、1ヵ月以上不在の事実のみで特約を有効と解したものではありません。ご質問の場合は、借家人がしばしば長期不在にするということですので、「このような状態が続くなら契約解除したい」旨をまずは内容証明郵便で通達しましょう。
(Owners誌2006年6月号より)