Q&A

築60年以上の借家があります。住むに耐えないほど破損しているので取り壊したいと思っていたところ、借家人が土台や柱を取り替えれば、まだ住むことができるとして、修繕を要求して借家の明け渡しを拒んでいます。このような求めに応じる必要があるのでしょうか?

正当事由を主張して借家の明け渡しを認めてもらえる可能性があります。

借家が朽廃状態なら修繕の必要はない

一般に、借家が朽廃した場合、借家契約は終了すると解されています。「朽廃」とは、借家が時の経過により自然に建物としての経済的効用を失うことをいいます。したがって、借家がすでに「朽廃」状態であれば、借家契約は終了していることになるので、借家を修繕する必要はなく、ただちに借家の明け渡しを請求することができます。
ただし、屋根や壁が腐り、雨露をしのぐことさえできない状態とならない限り、判例上は「朽廃」とは認定されないため、「住むに耐えないほど破損している」というだけではなかなか認定してもらえないと思われます。それでは、まだ「朽廃」状態ではなく、大修繕すれば借家の効用延長を図ることが可能なら、必ず借家人の修繕要求に応じる必要があるのでしょうか。
この点、判例は破損の著しい借家において、借家契約が自然朽廃によって終了する以前に、家主に修繕義務があるとするのは不合理だと判示しています(最高裁 昭35・4・26判決)。したがって、ご質問のケースでも、家主には借家を修繕する義務はないと解される可能性が高いといえます。

明け渡しが認められなかった判例もある

では、家主は修繕の義務はないとしても、借家が自然朽廃するまで明け渡しを求めることはできないのでしょうか。
この点、借地借家法28条の「正当事由」に該当していれば、朽廃が迫っている借家を取り壊すことを理由として借家の明け渡し、つまり借家契約の解約が認められます。ご質問のように借家が相当老朽化しているなら、正当事由が認められる可能性が高いといえます。
しかし、借家人にとって借家を明け渡すことは重大な影響を与えるため、借家人の生活状態を考慮して正当事由を否定した判例もあります(東京地裁 昭55・6・30判決)。このように、老朽化が進行していれば必ず正当事由が認められるわけではありませんのでご注意ください。
(Owners誌2006年8月号より)