Q&A

ビルの一室を飲食店に貸していましたが、このほど借家を明け渡してもらうことに。明け渡しに際し、借家人が室内の畳敷きの客席設備は造作であるとして、これの買い取りを請求してきました。買い取る必要があるのでしょうか?

畳敷きの客席設備は造作とはいえないので、買い取る必要はありません。

家主の同意を得て借家に付加した畳、建具その他の造作がある場合、賃貸借契約が終了時に、借家人は家主に対して、時価での買い取りを請求できます(借地借家法33条)。
ここでいう「造作」とは、借家の客観的便益を与えるもの、つまり借家の価値を高めるものという意味です。「造作」に該当するといえるのでしょうか。

飲食店の造作を再利用することは不可

造作の便益は居住用借家か営業用借家であるかによって異なります。たとえば、居住用借家であればほとんどの場合、標準的に備え付けられる畳や建具が「造作」に該当すると考えられます。そのため、「借地借家法」も畳と建具を「造作」の典型例として挙げています。しかし、飲食店の場合は客商売ということもあり、店の雰囲気作りが大変重要になるため、多くの場合、既存のものを利用せずに、店主の自由な発想に基づいた内装や造作が施されます。その結果、内装や造作は他業種だけでなく同業種でもそのまま利用できない場合が多くなります。
そのため、既存の造作が残っている場合、新たに店舗を 借りた借家人はそれを撤去して、新規に造作を施す必要が生じます。つまり店舗の使用に客観的便益を与えるとはいえないばかりか、店舗の価値を減ずる結果となります。

契約書で「造作買取請求権を放棄する」旨の明記を

したがって、ご質問のケースでも畳敷きの客席設備の買い取り請求を拒否することが可能だと考えます。同様のケースで、畳敷きの客席設備は「造作」に該当しないとした判例もあります(大阪地裁昭和58年5月31日判決)。
なお、このようなトラブルを未然に防止するためには、契約書に「造作買取請求権を放棄する」旨の規定を定めておくことが必要です。このような規定は借地借家法37条で有効と解されていることから、家主としてはこの規定を根拠として借家人の造作買取請求を拒否することができます。
(Owners誌2006年7月号より)