Q&A

新築オフィスビルの1室を賃貸していますが、退去に際して、貸借当時の状態にまで原状に復する旨の特約を定めています。このような特約も有効でしょうか?

民間賃貸住宅の場合と異なり、オフィスビルの場合、このような特約も有効であり、借家人は通常損耗の除去を含めた原状回復義務を負います。

賃貸住宅の通常損耗は原状回復義務の特約を定めていても無効に

借家を退去する際、借家人は、借家を原状に復して借家を明け渡す義務があります(民法616条)。しかし、この原状回復義務の内容については、民間賃貸住宅の場合、借家を賃借した当時の状態にまで原状回復する義務まで認めたものではなく、また通常の使用に伴って生じた損耗についてまで回復する必要はないと解されています。
このことは、通常の使用に伴い生じた損耗についても現状回復義務を負うとの特約が定められていた場合であっても同じであり、特約そのものが無効と解されます。

オフィスビルの原状回復費用は借家人負担が合理的と解されている

ところがオフィスビルの場合は、建物の使用方法が借家人によって大きく異なっており、しかも原状回復費用が相当高額となることも予想されることから、原状回復費用は借家人の負担とするのが経済的に合理的であると解されます。
そこで、判例はオフィスビルの場合、通常損耗の除去も含めた原状回復費用を借家人の負担とする旨の特約を付けることには経済的にも合理性があり、このような特約が付されている場合には、借家人は借家を契約締結時の原状に回復する義務があると解しています(東京高裁 平成12年12月28日判決等)。
その結果、オフィスビルの場合、借家人はクロスの全面的な張り替え、床板・照明器具などの取り替え、天井の塗り替え、その他特約で定めている全ての原状回復措置を講じる必要があることになります。
しかし、上記の判例を一般化して、特約がない場合であっても賃借当時の状態にまで原状回復したり、通常使用による損耗についても原状回復する義務があると解することはできないことに注意してください。
(Owners誌2005年1月号より)