Q&A

知人が失業して行くところがないというので、私が所有している一戸建てを貸しました。その際、建物の固定資産税に相当する金額を家賃代わりに支払ってもうらこととしました。その後、就職が決まったので出ていってもらいたいのですが明け渡してもらうことは可能でしょうか?

使用貸借契約の目的が達成したものとして、出ていってもらうことができるでしょう

「賃料の支払いの約定」があるか否かで、判断が異なる

建物を有償で他人に貸すことを賃貸借といい(民法601条)、無償で他人に貸すことを使用貸借といいます(民法593条)。すなわち賃貸借か使用貸借かは、ひとえに賃料支払いの約定があるか否かによります。賃貸借の場合には借地借家法の適用があり、建て物の明け渡しを請求するには、正当事由の存在など厳格な要件規定があります。
それでは、建物の固定資産税相当額を支払ってもらう約定だけで、賃料支払いの約定があるといえるのでしょうか。この点、貸主としては、固定資産税相当額の支払いを受けても、それを税金の支払いに充てるわけですから何の利益も得ていないといえます。したがって、建物を貸すことの対価は発生していないことから、使用貸借と考えてよいといえます。
判例も「借主がその建物等につき賦課される公租公課を負担しても、それが使用収益に対する対価の意味をもつと認めるに足る特別の事情のない限り、この負担は借主の貸主に対する関係を使用貸借と認める妨げとならない」と判示しています(最高裁昭和41年10月27日判決)

通常は、建物が存続する間は解除できないが…

しかし、使用貸借ということだけで、直ちに建て物を明け渡してもらうことができるわけではありません。
民法597条3項によれば、「当事者間において建て物を返還する時期を定めておらず、かつ建物を使用収益する目的を定めていない場合」には、貸主はいつでも建て物の返還請求ができるとしています。しかし、建物の使用貸借の場合、通常は居住し続けることを目的としていますので、建て物が存続する間は解除できないと考えられます(東京高判昭和61年5月28日判決、東京地判平成7年10月30日判決)。
ただし、ご質問の場合では、仕事に失業したことを気の毒に思い、その間だけ無償で使用させることにしたのですから、職が見つかり普通に家賃を支払って生活できるようになれば、使用貸借契約の目的は達したとして解除しても不当とはいえません。よって、使用貸借契約を解除し、建物を明け渡してもらうことが可能と考えます。
(Owners誌2010年3月号より)