Q&A

投資目的で賃借人のいるマンションを購入したところ、購入直前4カ月分の家賃を滞納していた賃借人がいました。
このような賃借人には一日も早く退去してもらいたいのですが、契約を解除することができるでしょうか?

マンション購入以前の賃料延滞を理由として、契約を解除することはできません。

マンションを購入すると賃貸契約の条件もそのまま承継される

賃借人のいるマンションを購入した場合、マンションの所有権の取得とともに、賃借人に対する賃貸人としての地位も当然に承継されます(判例)。その際、売主である旧賃貸人と賃借人との間で定められた賃貸借契約の内容(諸条件)は、そのまま包括的に、買主である新賃貸人と賃借人に承継されると解されています(最高裁 昭和38年1月18日判決、最高裁 昭和39年6月26日判決)。
 このようなことから、新賃貸人は前家賃の約定に拘束されることはもちろんですが、たとえば、旧賃貸人と賃借人との間で賃借権の譲渡・転貸を許す特約を定めていた場合は、新賃貸人もその特約に拘束されることになります(最高裁 昭和38年9月26日判決)

賃借人があらためて滞納しない限り債務不履行にはならない

しかし、旧賃貸人の下で発生していた延滞賃料については、別途債権譲渡の手続きを取らない限り、新賃貸人に承継されることはありません。なぜなら、延滞賃料とは、すでに弁済期間が過ぎ、それまでに支払われなかった未払いの賃料債権です。つまり、旧賃貸人のところで発生した債権であり、旧賃貸人のみが取得できるものだからです。
したがって、賃貸マンションを購入したといっても、そのような未払債権まで買主である新賃貸人に承継されることはないのです。
それでは、ご質問のケースのように旧賃貸人の下で発生していた賃料の未払いを理由として、新賃貸人が賃貸借契約を解除することは可能でしょうか。
この点、旧賃貸人との関係では債務不履行の状態にあったとしても、賃貸マンションを売却したことにより、新賃貸人に対する賃料の未払いは未だ発生していないわけですから、債務不履行に基づいて賃貸借契約を解除することはできないことになります。
つまり、新賃貸人の下で、賃借人が改めて賃料を滞納しない限り、このような賃借人に退去してもらうことはできないということになります。
(Owners誌2010年4月号より)