Q&A

家賃の10カ月分の敷金を差し入れてもらい、3年ごとに家賃の3カ月分を償却(敷引)するとの約定で事務所を賃貸していたところ、賃借人から賃貸後1年で解約したいとの申し入れがあり、合意解約しました。このような場合敷金から3カ月分の家賃を償却してもかまわないでしょうか。

賃貸借契約の中途解約の場合は、約定に関する償却費を賃貸期間と残存期間とに按分比して、残存期間に相当する償却費を返還すべきであると考えます。

敷金の一部を償却する約定のことを世間一般では敷しき引びきといっています。本来、賃貸人は賃貸借契約が終了して建物の返還を受けたときは、預かっている敷金を賃借人に返還する義務を負っています。

償却費とは、「建物や付属品の価値減に対する補償」

それでは、ご質問のように、敷金のうちの一定額を償却費名目で取得する場合、その償却費相当分はどういう性質のものと考えられているのでしょうか。判例の中には、「いわゆる権利金ないし建物、または付属備品等の損耗などの価値減に対する補償」という性質をもつと判示したものがあります(東京地判平成4年7月23日判決)。
 さらに、上記判例は、次のように判示しています。「賃貸借契約の存続期間及び保証金の償却期間を定めていたにもかかわらず、途中で賃貸借契約が終了したときには、賃貸人は償却費を賃貸期間と残存期間とに按分比し、残存期間に相当する償却費を賃借人に返還すべきと解するのが相当である」と。この判例の基準に従えば、ご質問のケースでは、「3年ごとに3カ月分を償却」するという約定があったものの、1年で解約になったわけですから、残存期間は2年となります。従って、3カ月分の償却費のうち2カ月分を賃借人に返還する必要があることになります。

約定があれば、全額償却も可能

 では、賃貸借契約書で「中途解約の場合でも、3カ月分の家賃を償却する」と定めていた場合はどうでしょうか。
 この点、判例の中には、償却金額が家賃の3カ月分に満たない金額であれば賃借人に過大な負担を課すものではなく、また、中途解約により賃貸人は、ある期間の家賃収入が得られなくなることから、このような償却の約定は認められると判示したものがあります(東京地判平成5年5月17日判決)。
 この判例の基準によれば、ご質問のケースでも、そのような約定を設けていれば3カ月分の家賃を全額償却する
(Owners誌2010年8月号より)