Q&A

宝石店を営んでいる賃借人が、家賃を数カ月滞納しています。そこで、店舗内の宝石を処分して滞納家賃の支払いに充ててもらいたいと思います。このようなことを訴訟を提起しないで、行なうことはできないでしょうか。

敷金でカバーできない部分について、店舗内にある動産の競売を申し立てることができます。

「先取特権」制度を利用すれば、競売が可能に

店舗内にある宝石を処分してもらうためには、まず、滞納している家賃の支払いを求めて訴訟を提起して判決をもらい、その判決に基づいて、店舗内の宝石類を差し押さえるのが最もオーソドックスな方法だと思います。
しかし、このような方法は非常に遠回りで時間も費用もかかるため、できれば訴訟を提起することなく、より簡単な方法によって、滞納家賃を回収するための強制執行ができればそれに越したことはありません。
この点、民法は不動産賃貸の「先取特権」という制度を設けています(民法311条1項1号)。この制度は、滞納している家賃が敷金額を超えていて、敷金ではカバーできない場合に、不足滞納分についてのみ簡易な競売手続を認めるものです。
この制度を利用すれば、不動産賃貸借契約書を執行裁判所に提出することによって、動産競売の開始許可を求めることができます。

「先取特権」を利用すると、
敷金は失われてしまうことに留意を

ただし、この「先取特権」が及ぶ動産については、賃借人が借家に備え付けた動産類に限定されています。具体的には金銭、有価証券、宝石類、営業用の什器備品、商品などに先取特権が及ぶと解されています。 ご質問のケースでは、この限定範囲に入りますから、店舗内にある宝石に「先取特権」を行使することができます。
一つ注意しておきたいことは、この「先取特権」の行使は敷金で弁済を受けられない債権の部分についてのみ認められますので、まず敷金を滞納家賃の支払いに充当する必要があるという点です。つまり、一度「先取特権」を行使すると、将来賃借人が再び家賃を滞納した場合は、賃借人の債務を担保するための敷金がなくなってしまうことになります。
このように、「先取特権」の行使は簡易な方法ではありますが、必ずしもベストの方法とは限らないという点に留意した上で利用してください。
(Owners誌2010年11月号より)