Q&A

市販の賃貸契約書に基づき、「賃借人が1カ月分の賃料を延滞したときは、賃貸人は通知催告をすることなく直ちに賃貸借契約を解除できる」旨の特約を定めていた場合、特約どおり、1カ月分の延滞だけで、催告なしにすぐさま契約解除できるものなのでしょうか? 1 カ月の滞納で契約解除が認められた判例もあると聞きますが

事情によって判断が異なります。判例のなかには、4 カ月分の賃料の延滞でも「無催告解除」を認めなかったケースもあります。

賃料滞納だけでは「無催告解除」は認められない

 契約の「債務不履行解除」について定められた民法541条によれば、相当な期間(催告期間)を定め、支払いを催告した上で、その期間内に支払いがない場合に初めて契約解除できるとされています。この解釈は賃貸借契約においても同様となります(最高裁昭和35年6月28日判決)。
 しかし、市販の契約書には、支払いを催告をしなくても直ちに契約を解除できる旨の特約(無催告解除特約)を予め印刷しているものがあります。
 このような特約に基づいて、1カ月分の家賃の滞納があれば催告せずに契約解除できるのでしょうか。
 この点、判例は「1カ月分の賃料滞納があったときは無催告解除ができる」旨の特約は、「催告しなくても不合理とは認められない事情がある場合には、無催告解除が可能」という趣旨であり、そう解釈できる場合は「無催告解除の特約」も有効と判示しています(最高裁昭和43年11月21日判決)。
 つまり、判例は賃料の延滞という事情だけでなく、催告しなくても不合理とはいえない事情の有無によって、「無催告解除」の可否を判断すべきとしているのです。

1カ月の延滞で「無催告解除」が認められた事例とは…

 判例のなかには、4カ月分の賃料の延滞があっても土地賃貸借契約の「無催告解除」を認めなかったものもあれば(東京高裁判例平成8年11月26日判決)、1カ分の賃料の延滞だけで認めたものもあります(前記の最高裁昭和43年11月21日判決)。 
 「無催告解除」を認めた事例は、賃借人が何年にもわたって賃料の延滞を繰り返してきたことを重視したものと考えられます。
 ただし、「無催告解除の特約」を定めていても、「無催告解除」自体が無効と解される可能性がある以上、原則どおり、滞納家賃を何月何日までに支払うようにと催告した上で、支払わない場合は契約解除する旨の意思表示をしておくことをおすすめします。
(Owners誌2010年12月号より)