Q&A

行くところがないという病気がちの高齢者と、「生存中のみ賃貸する」との合意をして賃貸契約を締結しました。万一、借家人が死亡して、相続人が現れた場合、相続人に対して、借家契約が終了したとして対抗できるでしょうか?

借家人が死亡したことにより借家契約は終了し、相続人に対しても対抗できると解されます。

「正当事由」がないと契約を終了できないが…

借家人との間で、借家契約の存続期間について、「借家人が死亡するまで」と合意したとしても、借家人がいつ死亡するかは契約締結時において明らかではなく、不確実な事柄です。このような不確定な期限による借家契約については、一般論では借家人に不利な特約(借地借家法30条)に該当し、無効であると解され、はじめから期限が定められていない契約として取り扱われることになります。
この一般論をご質問のケースに当てはめると、借家人の死亡によって、相続人に借家人としての地位が承継されるため、家主は借家を明け渡してもらうために、相続人に解約の申し入れをしなければなりません。
解約の申し入れには、「正当事由」が備わっていなければならないので(借地借家法28条)、それがない場合には、借家契約は終了しません。

家主の厚意は最大限尊重されるべき

しかし、家主が、病気がちで行くところがない老人を不憫に思い、「生存中のみ」という条件で賃貸した事情は最大限尊重されるべきものであるため、家主の解約には「正当事由」が認められると解されます。つまり、家主は相続人に対して、借家契約が終了することができると考えます。
そもそも、「生存中のみ賃貸する」との合意は、家主の好意により、生存中は安心して賃借できるようにし、その代わり死亡したら必ず明け渡してもらう約束をしたものであり、借家人に不利な特約ではないと解されます。
したがって、私見としては、このような特約は有効であって、家主は相続人に対して、この合意の存在を主張して、借家契約が終了したとして対抗できると考えます。
ところで、「高齢者の居住の安定確保に関する法律」(平成13年8月施行)によれば、都道府県知事または国土交通大臣によって事業認可を受けたうえで、公正証書などの書面で、高齢者との間で終身借家契約を締結することができます。つまり、この制度を利用すれば、借家人の死亡によって借家契約は終了し、確実に借家を返還してもらうことができます。
(Owners誌2008年8月号より)