Q&A

借家人の一人の失火でアパートが全焼してしまいました。火元の借家人に対して、どのような請求をすることができるでしょうか。

全焼した借家のうち、他の借家人が借りている借家部分については賠償請求できるとは限りません。

全焼しても、火元の借家人に建て直しの義務はない

アパートが全焼した場合、借家契約の目的物が消滅したことになりますので、いかなる理由であっても、すべての借家人との間の借家契約は終了します。契約終了に際して、借家人は家主に対して借家を原状に復して返還する義務を負うものと法律(現状回復義務)で定められていますが、借家が滅失した場合にまで、同一の物件(アパート)を改めて建て直して明け渡すべき義務を負うものではありません。このことは、火元の借家人であっても同様です。したがって、家主は火元の借家人に対して、アパートを建て直すように請求することはできません。しかし、借家人は、借家を「善良な管理者の注意をもって使用・収益する」義務を負っていますから、借家人が失火によってアパートを全焼させてしまった場合、借家人は家主に対して、債務不履行に基づいて損害賠償責任を負うことになります。

借家人はどの程度、損害賠償の義務を負うのか?

問題は、家主の被った損害を借家人はどの程度賠償する義務を負っているのかという点です。この点、借家人はアパート全体を借りているわけではなく、自室のみの借家契約を行なっています。したがって、借家人はたとえ焼失が、自己の失火に基づくものであっても、自室以外の他人の居室についてまで、債務不履行に基づく損害賠償責任を負っていないことになります。ただし、借家人は自室以外にも、玄関・廊下その他生活に必要な共用部分についても使用していますので、これらの共用部分の損失については賠償責任を負うと考えてよいと思います。それでは、火元の借家人は、自室以外の他人の居室部分が滅失したことについて一切責任を負わないのでしょうか。この点、失火責任法(「失火の責任に関する法律」)という法律があり、借家人に故意または重大な過失があった場合には、他人の居室を含むアパート全体の損害について、不法行為に基づく損害賠償責任を負うことになります。
(Ownerw7月号より)