Q&A

借家人が亡くなり空家になったので借家を売却しました。ところが、最近になって相続人という人が現れて、借家に居住したいと言ってきました。居住させなければならないのでしょうか?

居住させる必要はありませんが、損害賠償責任を負うことがあります。

借家人が亡くなれば、その相続人が借家権を引き継ぐことに

まず一般に、借家権は財産的価値のあるものとして、相続の対象になると解されています。判例にも同様の判断を示したものがあります(最高裁昭和37年12月25日判決)。したがって、借家人が亡くなれば、その借家権は借家人の相続人に相続されることになります。それでは、借家人が死亡し、同居人がいなかったことから借家を売却してしまった場合、相続された借家権はどうなるのでしょうか。
この点、原則として借家を購入した買主は、前の家主と借家人の借家関係も承継すると解されています。しかし、ご質問のケースのように同居人もなく、また相続人からも何の連絡もないような場合にまで、買主に借家関係が承継されるとすれば、買主は不測の損害を被ることになります。買主は、まさか借家人がいるとは思いもしないことだからです。したがって、ご質問のケースのように空家となった借家を売却した後は、相続人は買主に対して借家権を主張することはできないと解されることから、相続人の言い分どおり居住させる必要はありません。

相続人の有無を確認せずに売却した場合、家主は損害賠償責任を負うことに

しかし、居住させる必要がない場合でも、元の家主が相続人に対して損害賠償責任を負わなくてよいということにはなりません。なぜなら、借家権が相続人に相続されているにも関わらず、前の家主が借家を売却してしまったことで、相続人は買主に対して権利を主張できなくなったからです。借家人が亡くなった後、相続人がいないかどうか探したが見つからなかった場合は過失が認められず、損害賠償責任を負うことはありません。しかし、漫然と何もせずに借家を売却してしまったような場合は、家主に過失があったとして損害賠償責任を負うことになります。
(Owners誌2008年3月号より)