Q&A

最近、借家人の顔を見ないので、一緒に住んでいる奥さんに聞いてみたところ、蒸発してしまったとのことでした。このような場合、借家を明け渡してもらうことはできないのでしょうか?

借家人が蒸発したという事実のみで、借家契約を解除することはできません。

借家人が義務を守らない場合は契約解除できるが…

民法612条によれば、家主の承諾がなければ借家人は賃借権を譲渡したり、借家を転貸することはできないとされています。また、賃借権を譲渡したり、借家を転貸していない場合であっても、借家を第三者に使用させることも許されていません。借家人がこれらの義務を守らなかった場合は、家主は借家契約を解除することができます。しかし、ご質問のケースでは、借家人である夫が賃借権を放棄したという事情は認められないだけでなく、賃借権の譲渡あるいは借家が転貸されているというわけでもありません。また、借家人の妻は借家契約上、同居人として借家に居住することが初めから許されているわけですから、借家人が蒸発したからといって借家を第三者が使用しているということにはなりません。したがって、借家人の蒸発という事実は、ただ単に借家人の不在の状態が継続しているだけであると解するほかありません。

蒸発状態が7年続けば失踪の申し立てができる

それでは、借家人が不在という不安定な状態のまま永遠に契約が続くことになるのでしょうか。この点、民法によれば生死不明の状態が7年間続くと、失踪宣告の申し立てをすることができ、失踪宣告がなされると、失踪者は死亡したものとみなされることになります(民法30条、31条)。その結果、相続が開始することとなり、通常は借家人の妻が賃借権を相続することになります。いずれにせよ、家主としては、借家人が蒸発したという事実だけでは借家契約を解除することはできません。たとえば借家人が蒸発したことにより生活が困窮し、家賃の支払いが滞るようになったという事情が認められれば、債務不履行を理由として借家契約を解除することができます。しかし、蒸発したことと、この「債務不履行」の問題とは別の話だということなのです。
(Owners誌2007年9月号より)