Q&A

木造アパートを賃貸していますが、隣室との境の壁が薄いため、借家人から防音の修繕を請求されました。応じなければならないのでしょうか?

契約当初から欠陥があっても、そのことが賃料の額等に反映されていれば、修繕する必要はありません。

契約当初から借家人は隣室との壁が薄いことを承知していた

家主には借家人に対して、賃借建物の使用および収益に必要な修繕をする義務があります(民法606条1項)。この修繕義務は、契約で定めた目的にかなう使用ができない場合に発生する義務であると解されています。
今回のケースでは家主も借家人も、契約当初から建物がそのような状態のものであることを前提として契約していると考えられます。
それでは、ご質問のように隣室の声が筒抜けで、それを防ぐには何らかの防音措置を取る必要がある場合にも、家主は防音措置を施すための修繕を行う義務があるのでしょうか。

欠陥を考慮に入れた賃料であれば修繕義務を負うことはない

ここで、今回と類似したケースを扱った東京地裁の裁判事例(昭和55年8月26日判決)を見てみましょう。 その判決によると、家主の修繕義務は契約締結後に破損したものを修繕する義務であり、契約当初から予定されていた程度以上のことを借家人が要求する権利までを含むものではないと判示して、家主の修繕義務を否定しました。
次いで、この判決の上告審判決(東京高裁の昭和56年2月12日判決)では、結論は東京地裁の判決と同じでしたが、以下のように判示されました。つまり、欠陥が契約当初から存在していたとしても、それだけで家主は修繕義務を免れるものではなく、借家人がかぶる不便の程度と賃料の比較によって決せられるとのこと。
したがって、今回の場合、東京高裁の判決に従えば、隣室の声が筒抜けとなることを考慮に入れて賃料を低廉に設定していたなら、家主は修繕義務を負いません。一方、そのような考慮を全くしていない場合には、修繕義務を負うことになると考えられます。
(Owners誌2006年1月号より)