Q&A

アパートの一室が長らく空室になっています。今度入居希望者が現れたら、次の入居者が決まるまで敷金の返還を猶予してもらう特約を定めようと思います。そのような特約は有効でしょうか。

そのような特約は無効と解されます。

判例の解釈はケースバイケース

一般に、敷金・保証金の返還時期については、借家を明け渡した時と定めることもあれば、長期間据え置いた上で分割払いと定めるケースもあり、まちまちだと思われます。
しかし、家主としては、新しい入居者から預かった敷金・保証金を退去する借家人に返還することができれば、敷金・保証金を預かっている空白期間がなくなりますので、とてもありがたいことだと思います。そこで、問題になるのがこのような特約が有効かどうかということです。
この点、判例は、敷金・保証金返還の特約の有効性について、特約の内容の合理性や敷金・保証金を受領した事情等を考慮した上でケースバイケースの判断をしているようです。

特約が有効となると、敷金・保証金を長期間、返還しなくてもよいという不合理な結論に…

例えば、敷金・保証金の据置期間を10年と定め、その後分割返済する旨の定めがある場合、途中で借家契約を合意解約したとしても、特約は有効であり、10年の据置期間が来るまでは敷金・保証金の返還義務はないと判示した判例があります(東京地裁昭和50年6月21日判決)。
その一方で、契約期間も敷金・保証金の据置期間も20年とする旨の定めがあり、賃貸借開始後6年半で賃料の不払いを理由に借家契約が解除となったケースで、以下のような判例があります。すなわち、敷金・保証金の据置期間は契約が期間満了によって終了することを想定して定めたものであり、据置期間が到来していなくても返還する義務があると判示しています(大阪地裁昭和52年3月15日判決)。
では、ご質問の場合はどう考えればよいでしょうか?賃貸借期間の満了とは無関係に、敷金・保証金の返還を次の入居者が決まるまで待ってほしいというお話ですが、先述の各判例から判断すると、借家期間満了前に賃料の不払いを理由に契約が解除された場合には、このような特約も有効と解される余地はあるでしょう。
しかし、私見としては、特約を有効と解すれば、次の入居者が長期間決まらない場合でも敷金・保証金を返還する必要がなくなることになり、このような結論は合理的ではないため、特約そのものを無効と解すべきだと考えます。
(Owners誌2009年7月号より)