Q&A

オフィスビルを賃貸することがほぼ決まっていたのですが、事情があって契約しませんでした。ところが、入居予定者だった人が「入居できると信じて引越屋さんを頼んでしまい、違約金を支払ったので賠償してほしい」と言ってきました。どう対応したらよいでしょうか?

契約準備段階で過失があったと認められる場合には、損害を賠償する必要があります

入居予定者の期待を一方的に奪ったことに何のお咎めもないのは、不公平

 契約を締結するかどうかは、契約当事者の判断に委ねられています(契約自由の原則)。ご質問のケースでは、「賃貸することがほぼ決まっていた」とありますが、まだ契約を締結していたわけではないので、オーナーのあなたが契約締結を拒否することに何の問題もありません。
しかし、入居予定者だった人は、オフィスビルを賃借することがほぼ決まっていたことから、それをあてにして計画を立て、さまざまな支出をしたと考えられます。そのような期待を一方的に奪ってしまったことについて、何のお咎めもないというのも不公平といえます。
そこで判例は、契約が締結されていなくても、契約締結の準備段階に入った場合には、信義則上、相手方に不測の損害を与えないように注意する義務があるとし、注意義務違反(契約準備段階の過失)が認められる場合には、損害賠償責任が発生すると判示しています(最高裁昭和56年9月18日判決、東京地裁昭和53年5月29日判決等)。

損害賠償の対象になるのは
実際に被った損害のうち、「信頼利益」の損害に限られる

そこで、ご質問のケースに上記判例の考え方を当てはめてみましょう。
入居予定者にとって、契約が締結されるであろうと信頼するような事情が認められ、その信頼に基づいて入居予定者が出費を行ない、そのことをビルオーナーのあなたが知っていた場合には、その出費に対して損害賠償の責任を負うことになります。
ただし、損害賠償の対象となるのは、契約の成立を信頼したために実際に被った損害(信頼利益)に限られると解されています。従って、オフィスを借りて、そこで営業を行なっていれば得られたであろう利益(逸失利益)については損害賠償の対象とはなりません。これに対して、引越屋さんを頼んでしまい違約金を支払ったという場合には、損害として賠償請求の対象となります。
(Owners誌2010年1月号より)