Q&A

営業目的で賃借していた賃借人が、税金対策のために法人化して法人名義で営業を行なっています。当初の契約とは異なるため、無断転貸にあたるとして契約を解除することはできるでしょうか?

無断転貸には当たりますが、契約を解除することはできないと解されます。

義務違反でも、背信行為でなければ契約解除はできない

 民法612条1項によれば、賃貸人の承諾がない限り、賃借人は、借家を勝手に転貸(また貸し)することはできないとされています。そして、民法612条2項によれば、無断転貸に該当する場合、賃貸人は賃貸借契約を解除することができるとされています。
それでは、ご質問のケースのように賃借人が法人化し、借家を法人として利用した場合、「無断転貸」に当たるのでしょうか。理論上、自然人と法人は、それぞれ別々の人格であると解されていますので、賃貸人の承諾を得ることなく勝手に法人化して、法人名義で借家を利用すると「無断転貸」に該当すると解するほかありません。
しかし、賃借権の無断転貸に該当するということで、直ちに賃貸借契約を解除できるというわけではありません。判例は、無断転貸は賃借人の義務違反ではあるけれども、信頼関係を破壊する行為(背信行為)と認めるに足る特段の事情がない場合には、賃貸人の解除権は発生しないと解しています(最高裁昭和28年9月25日判決)。

全く別の法人に転貸した場合は解除権が発生する

この「特段の事情」については、一般的には、転貸による利益の有無・多寡、営業目的の有無、賃貸借契約を締結した当初の動機、転貸した理由、借家の利用状況、賃料の支払状況、借家の種類・構造、転貸を認めることによる周辺への影響などを斟酌して、契約の解消が妥当かどうかを総合的に判断して決めると解されています。
もし、自然人である賃借人が、自ら設立した法人とは全く別の法人に借家を利用させた場合であれば、賃貸人との信頼関係を破壊するものとして、解除権が発生すると解するのが妥当です。しかし、賃借人自らが法人化して借家を利用する場合であれば、実際には、その使用状況に変化はないことから、賃貸人との信頼関係を破壊する行為とまでは認められず、無断転貸には該当しないと解されています(最高裁昭和38年10月15日判決)。
なお、法人化された場合、法的には契約を結び直さなくても問題はありませんが、名義人が変わっていますので、契約し直しておくことをおすすめします。
(Owners誌2010年10月号より)